統合失調症は、幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患です。それに伴って、人々と交流しながら家庭や社会で生活を営むことが難しくなりやすい特徴があります。この病気は脳の神経ネットワークにトラブルが生じる「脳」の機能障害と考えられており、およそ100人に1人弱の割合で発病します。発症は、思春期から青年期という10歳代後半から30歳代が多い病気です。
統合失調症の原因は、今のところ明らかではありませんが、進学・就職・独立・結婚などの人生の進路における変化が、発症の契機となることが多いようです。統合失調症の原因には素因と環境の両方が関係しており、素因の影響が約3分の2、環境の影響が約3分の1とされています。
統合失調症の治療は、外来・入院いずれの場合でも、薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせて行います。薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせると相乗的な効果があることが明らかとなっており、ともに車の両輪のようにいずれも必要であることを理解しておくのが大切です。症状が現れてから薬物治療を開始するまでの期間(精神病未治療期間)が短いと予後がよいことが指摘されていますので、長期経過の面でも早期発見・早期治療が大切であることがわかります。
下記に統合失調症に特徴的な症状を挙げていますので、思いあたる症状があれば、早めに受診されることをお勧めします。
うつ病とは「憂うつである」「気分が落ち込んでいる」などと表現される症状を抑うつ気分といいます。抑うつ状態とは抑うつ気分が強い状態です。これがある程度以上、重症である時、うつ病と呼んでいます。平成25年に厚生労働省が行った調査では、うつ病の有病率は6.7%であり、15人に1人が生涯に1度はうつ病にかかる可能性があると報告されており、うつ病患者さんは年々増加しています。ストレス社会でうつ病は、誰でもかかりうる身近な病気ですが、本人の苦しみや自殺の危険などを考えると、早く治療したほうがよいことは言うまでもありません。一般的に女性、若年者に多いとされますが、日本では中高年でも頻度が高く、うつ病による社会経済的影響はとても大きいとされています。脳内のセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の低下に原因があると言われており、このような物質が脳の中に足りなくなりうつ病になるとされています。
治療については病気の状態により様々で、環境のストレスが大きい場合は調整可能かどうかを検討し、対応します。性格的にストレスを受けやすく、過去にいろいろな場面でうまく適応できずうつ状態になっているような場合は、精神療法も行い一緒に対処していく必要があります。また症状が悪ければ薬物治療も考慮します。普段の自分と違う心身の調子の変化に気づいたら、また周囲の方であれば、いつもと違う相手の様子に気づいたら、一度はうつ病を思い浮かべて、早期に受診されることをお勧めします。
双極性障害は、精神疾患の中でも気分障害と分類されている疾患のひとつです。うつ状態だけが起こる病気を「うつ病」といいますが、このうつ病とほとんど同じうつ状態に加え、うつ状態とは対極の躁状態も現れ、これらをくりかえす、慢性の病気です。昔は「躁うつ病」と呼ばれていましたが、現在では両極端な病状が起こるという意味の「双極性障害」と呼んでいます。治療せずに放置していると、何度も躁状態とうつ状態を繰り返し、その間に人間関係、社会的信用、仕事や家庭といった人生の基盤が大きく損なわれてしまうのが、この病気の特徴のひとつでもあります。日本では、双極性障害の人の割合は0.7%くらいといわれています。双極性障害の原因は、まだ解明されていませんが、精神疾患の中でも脳やゲノムなどの身体的な側面が強い病気だと考えられています。ストレスが誘因や悪化要因になりますが、単なる「こころの悩み」ではありません。ですから、精神療法やカウンセリングだけで根本的な治療をすることはできません。また双極性障害は、どんな性格の人でもなりうる病気です。双極性障害には、気分安定薬と呼ばれる薬が有効ですが、お薬の治療だけでなく、病気の性質や薬の作用と副作用を理解し、その病気に対するこころの反応に目を配りつつ、治療がうまくいくように援助していくような心理教育も同時に行っていきます。再発のきっかけになりやすいストレスを事前に予測し、それに対する対処法などを学ぶことも有効です。下記に双極性障害に特徴的な症状を挙げていますので、思いあたる症状があれば、早めに受診されることをお勧めします。
認知症とは「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態」をいいます。認知症の最大の危険因子は加齢です。現時点で、我が国の65歳以上の高齢者における有病率は8~10%程度と推定されています。今後、高齢者人口の急増とともに認知症患者数も増加するとされています。わが国の認知症の原因疾患は、1980年代まで脳血管性が最多とされましたが、近年の疫学研究はアルツハイマー病が最も多いとする傾向にあります。また認知症の原因疾患としては、脳血管性認知症が最多でした。そしてアルツハイマー病、頭部外傷後遺症、そして前頭側頭葉変性症と続いています。どの認知症にも共通する症状は、中心的な記憶などの認知機能障害と、行動異常・精神症状に大別されます。前者では、記憶障害(新しい情報を学習したり、以前に学習した情報を思い出したりする能力の障害)が基本になります。それに失語、失行、失認、実行機能の障害も重要です。また、暴言・暴力、徘徊・行方不明、妄想などの周辺症状が問題になりやすいです。こうした問題は長期に渡って持続し、在宅介護ができなくなる直接因になりがちです。認知症の治療薬には、塩酸ドネペジルなど抗コリンエステラーゼ阻害薬などの種類がありますが、同時に効果的な心理・社会的な治療アプローチにより薬物療法を補って治療効果を高める必要があります。
アルコール依存症をひとことでいうと、「大切にしていた家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態」です。具体的には、飲酒のコントロールができない、離脱症状がみられる、健康問題等の原因が飲酒とわかっていながら断酒ができない、などの症状が認められます。「飲む量のコントロールができない」「飲む時間のコントロールができない」など、様々な形で現れ、次第に連続飲酒という形に集約されていきます。
わが国には大量飲酒者やアルコール依存症の患者さんはどのくらいいるのでしょうか。2003年に実施された全国成人に対する実態調査によると、飲酒日に60g(純アルコール量として)以上飲酒していた多量飲酒の人は860万人、アルコール依存症の疑いのある人は440万、治療の必要なアルコール依存症の患者さんは80万人いると推計されています 1) 。アルコール依存症の患者さんは、強い渇望にさいなまれます。飲み始めの時のつもりより、時間的に長く飲んでしまう、量を多く飲んでしまう、などが頻繁に認められます。アルコール依存症には、肝臓障害をはじめとする様々な身体障害や、うつ病や不眠症を代表とする精神障害が合併します。また自殺、事故、家庭内暴力、虐待、家庭崩壊、職場における欠勤、失職、借金など多くの社会問題に関係しています。治療は、症状に応じて様々ですが、入院治療ではまず精神・身体合併症と離脱症状の治療を行い、これらが回復してきた後に、断酒に向けての本格的な治療を開始します。この時期には、まず心理教育により、患者さんに正しい知識を提供するのと同時に、個人カウンセリングや集団精神療法などで否認の処理と断酒導入を行います。また抗酒薬の投与も検討します。退院後の断酒継続をみすえ、断酒会などの自助グループへの導入を図るとともに、家族や職場との調整を行います。
パニック障害、不安障害とは突然理由もなく、動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった発作を起こし、そのために生活に支障が出ている状態をパニック障害といいます。命の危険がないのに、まるで命が脅かされているような不安や恐怖を感じ、体にもパニック状態でみられるような症状が起きるのです。パニック障害は決して珍しい病気ではなく、一生の間にパニック障害になる人は100人に1~2人といわれます。男性よりも女性に発症しやすいということもいわれています。パニック障害は、パニック発作から始まります。はじめはパニック発作だけですが、発作をくりかえすうちに、発作のない時に予期不安や広場恐怖といった症状が現れるようになります。また、うつ症状をともなうこともあります。このパニック発作は、死んでしまうのではないかと思うほど強くて、自分ではコントロールできないと感じます。そのため、また発作が起きたらどうしようかと不安になり、発作が起きやすい場所や状況を避けるようになり、外出ができなくなってしまうことがあります。
パニック障害は薬物療法が効果を発揮しやすい障害です。併せて、少しずつ苦手なことに慣れていく心理療法が行われます。薬を服用することや治療全般に不安や疑問がある場合は、遠慮せずに受診して相談することをお勧めします。
強迫性障害では、自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れない、わかっていながら何度も同じ確認をくりかえしてしまうことで、日常生活にも影響が出てきます。意志に反して頭に浮かんでしまって払いのけられない考えを強迫観念、ある行為をしないでいられないことを強迫行為といいます。たとえば、不潔に思えて過剰に手を洗う、戸締りなどを何度も確認せずにはいられないといったことがあります。こころの病気であることに気づかない人も多いのですが、治療によって改善する病気です。国内では、どのくらいの割合で強迫性障害患者さんがいるのかはまだ完全には明らかになっていませんが、欧米では全人口のうち強迫性障害にかかっている人は1〜2%、50~100人に一人の割合といわれており、日本でも同じくらいの割合になるとも考えられています。発症には多様な要因が関係していると考えられており、なぜ強迫性障害になるのか原因ははっきりとはわかっていませんが、積極的に治療に取り組めば治ることも可能な病気となっています。
「しないではいられない」「考えずにいらない」ことで、不安やこだわりが強くなり、つらくなっていたり不便を感じるときには、早めに受診して相談してみましょう。
発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違っているために、幼児のうちから症状が現れ、通常の育児ではうまくいかないことがあります。成長するにつれ、自分自身のもつ不得手な部分に気づき、生きにくさを感じることがあるかもしれません。ですが、発達障害はその特性を本人や家族・周囲の人がよく理解し、その人にあったやり方で日常的な暮らしや学校や職場での過ごし方を工夫することが出来れば、持っている本来の力がしっかり生かされるようになります。発達障害はいくつかのタイプに分類されており、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症などが含まれます。幼児期に診断された場合では、個別や小さな集団での療育を受けることによって、コミュニケーションの発達を促し、適応力を伸ばすことが期待できます。治療としては生活環境の調整や心理教育、療育指導などをまず行い、これらに効果がない場合は薬物療法が考慮されることが多いです。親をはじめとする家族が発達障害に対する知識や理解を深め、本人の特性を理解することが、本人の自尊心を低下させることを防ぎ、自分を信じ、勉強や作業、社会生活への意欲を高めることにつながります。早期に診断することは、親が子どもをありのままに理解し、その成長を専門家のサポートとともに見守っていくことに役立ちます。また成人になり就職してから初めて、仕事が臨機応変にこなせないことや職場での対人関係などに悩み、自ら障害ではないかと疑い病院を訪れる人もいます。
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